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みっどさまーず・ないつ

When I opened the door called truth, my childhood ended.

果てなき天のファタルシス

 「ファタル」と呼ばれる謎の敵により、滅ぼされつつある人類。そんな中で残された僅かな街の一つ、朧市の前線で戦う少年少女達。物語は、記憶喪失の主人公大海八尋が目覚めるところから始まる。

果てなき天のファタルシス (星海社FICTIONS)

果てなき天のファタルシス (星海社FICTIONS)

 

 

 

 なんだか変だと思うよ。僕には短い間の記憶しかないし。その前のことは打ち上げ花火くらいしか覚えていない。僕だけ宙に浮いているみたいだ。地に足がついていない、まるで幽霊みたいだ。そう感じたこともある。これはぜんぶ夢で、戦いなんて起こっていないんだ。敵なんかいない。仲間は、友達は、親も、兄弟も、親戚も、誰も死なない、死ななくていい」*1

 

 記憶喪失によって失くした以前の自分。自分より優秀な他のメンバー。そして自分の悩みを理解してくれない父親。周りのすべてに負い目を感じ、本当に今の「自分」は昔の「自分」なのか、戦う方法まで忘れた「自分」は必要なのかという存在論にまで行きつく。でも八尋は戦う仲間を見捨てられない。そしてそんな八尋にも優しく接してくれる野々川千真に徐々に心を惹かれる。しかしその優しくしてくれた野々川が仲良くなっていた友人と付き合っていたという事実。自分の好きな人が自分の覚えていないところで、自分の知っていたはずの人と関係を持っていたという事実。主人公は物語の中で常に悩み続ける。

 

 ここまで読んだ人は気づいただろう。こんな悩みは誰でも抱えている。今の自分は本当に正しいのかくらいの悩みなら、戦場に巻き込まれた少年少女じゃなくても、誰でも思春期ならば抱える悩みだ。そして八尋もそれに真剣に悩み、そしてそれに答えを出すことができない。十文字青が描く物語の主人公はいつもどこか自分に自信がない。この物語の主人公もそうだ。だが、最後の最後で八尋はようやく悩んでいるのは自分だけでなくみんなそうで、確かでないのも自分の存在だけではなく世界もそうだということに気付く。そんな八尋が最後に見上げた空はとても青く美しい綺麗な空だった。

 

*1:本文より